新書『搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! 』

搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)
阿部 真大 (→amazon)

本屋で手に取ったら面白そうだったので買ってみました。2006年10月22日発行となっていて、出たばっかりのようです。

amazonの要約

大学を休学した「僕」は、一年間にわたりバイク便ライダーの仕事に従事する。そこで出会ったのは、不安定雇用の立場に甘んじながら、危険労働の現場に積極的に飛び込む、同僚ライダーたちの姿だった。広く他業種を見渡しても、ニート問題や引きこもりでやり玉にあがることの多い若者たちは、むしろ、自ら進んでワーカホリック状態に陥っている。それは一体なぜなのか?東京大学大学院に在籍中の著者が、自らの体験をもとに、同世代の団塊ジュニアが直面する労働・雇用問題を分析した、衝撃の論考。

英国のポリー・トインビー『ハードワーク~低賃金で働くということ』(→amazon)、米国のB.エーレンライク『ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実』(→amazon)のように、社会学者が実際に労働現場に参与観察してみるシリーズ、の一環としてみることができるでしょうか。

冒頭のほうを引用すると、

不安定な仕事で自己実現をし、ワーカホリックとなることは非常に危険である。だからやりたい仕事があっても、それが未来のない仕事であるならば、没入してはいけません。おわり。

……と、ここで終わっては、僕がこの本を書く意味がない。そのくらいのことは若者もわかっている。では、なにが問題なのか。それが分かっていても、彼らは不安定な仕事のなかでワーカホリックになってしまう。 (19p)

若者も最初は、このような仕事を長く続けることはできないことはわかって入ってくる。しかし、職場にあるメカニズムによって、ライダーは知らず知らずのうちにワーカホリックになっていってしまう、ということ。

ライダーの発言を数多く収録して、バイク便ライダーの現状が垣間見える本になっています。当初は趣味性の高いハーレーやビッグスクーターで参入してくる若者が、先輩と働くうちに、どんどん車幅の細い、趣味の世界からすると「ださい」バイクを「かっこいい」と思うように変わっていく過程(本書では、「労働による趣味の更新」と名付けられる)とか。

ライダーは雇用者ではなく請負契約のようで、事故で怪我をしても労災保険はなく、怪我をするとその日から収入を断たれてしまう、また、バイクの修理代やガソリン代もすべてライダー持ち。著者はブレーキが壊れたとき、修理するお金がなく、足でバイクを止めながら数日働いたそうです。

ライダーがワーカホリックに陥っていくメカニズムを少し紹介しておくと、、、
まず、ライダーには時給ライダーと歩合ライダーが存在する。

 ・ルール1
  配車係は元歩合ライダーである

 ・ルール2
  バイク便ライダーはユニフォームが統一されている

 ・ルール3
  時給ライダーは歩合ライダーになることができるが、歩合ライダーは時給ライダーになることができない

この三つのルールから、最初は軽い気持で入ってきた若者がワーカホリックライダーになってしまう過程が書かれています。

注目すべきは、このルールは経営者がライダーをつなぎとめるために巧妙に考えだしたものなどではなく、とくに理由はなくなんとなく採用されていたルールにすぎない、ということ。しかし、この3つのルールが存在することによって、若者の職場はなかば自律的にワーカホリックライダーを生み出すようになっていく。(詳しくは本でどうぞ)
使用者の上からの命令ではなく、職場のヨコの関係から過剰労働に陥ってしまう、というのは大野正和『まなざしに管理される職場』(→amazon)でも指摘されていたことですね。

特に印象深かったのは、顧客の大半である一流企業やIT企業に書類をとどけるたびに、ぬくぬくといいとこ(のようにみえるところ)で仕事してる「あいつら」と、ブルーカラーである「俺たち」の圧倒的な差を感じ、しかし路上では「バイク便ライダー」としてすり抜けなどの卓越した運転技術によってタクシーの中にいたりするホワイトカラーよりも優位に立つことができる。「バイク便ライダー」としての自己を演じることで、ライダーとしての誇りを持つようになり、よりライダーに「はまっていく」という構図。「ハマータウンの野郎ども」(→amazon)のようだ。

1時間以内ですらすら読めてしまい、すぐ終わってしまってちょっともったいないような気もしますが、なかなか面白い、いい本だと思います。

あと欠点としては、これだけバイク便ライダー業のたいへんさを書いておきながら、ちょっと都心でバイクに乗ってみたくなってしまうところ(笑)「すり抜け」や「歩道左折」などのテクニックをライダーが誇りを持って語っている発言が満載で、すこし影響されてしまう。バイク乗りたいけどもろもろの事情から我慢している人は読まない方がいいかも。